政府労災保険4.適用単位としての事業(場)
(1) 事業(場)単位適用の原則
労災保険法は、個々の事業(場)毎に適用される。
即ち、個々の事業(場)毎に保険関係が成立し、事業の種類や
労災保険率が決定されるのである。
(2)継続事業と有期事業
一定の場所において、一定の組織の下に相関連して行われる
作業の一体は、原則として一の事業として取扱う。
①継続事業
工場、鉱山、事務所等のごとく、事業の性質上事業の期間が
一般には予定し得ない事業を継続事業という。
●継続事業における一つの事業(場)
a.同一場所にあるものは分割することなく一の事業とし、
場所的に分離されているものは別個の事業として取扱う。
(場所による決定)
b.同一場所にあっても、その活動の場を明確に区別すること
ができ、経理、人事、経営等業務上の指揮監督を異にする部門
があって、活動組織上独立したものと認められる場合には、
独立した事業として取扱う。
C.場所的に独立しているものであっても、出張所、支所、事務所
等で労働者が少なく、組織的に直近の事業に対し独立性があると
は言い難いものについては、直近の事業に包括して全体を一の
事業として取扱う。
②有期事業
木材の伐採の事業、建物の建築の事業等事業の性質上一定の目的
を達するまでの間に限り活動を行う事業を有期事業という。
●有期事業における一つの事業(場)
a.当該一定の目的を達するために行われる作業の一体を一の事業
として取扱う。(目的による決定)
b.国または地方公共団体等が発注する長期間にわたる工事であって、
予算上等の都合により予め分割して発注される工事については、
分割された各工事を一の事業として取扱う。
(注)1.一定の目的を達するために、場所的かつ時期的に相関連して
行われる附帯作業、迫加作業等は、一定の目的を達するために行わ
れる事業の一部をなすものとして取扱われる。
2.時期的に独立して行われる作業であっても、当該作業が先行する
事業に付随して行われるものである場合には当該先行する事業に
吸収して取扱われる。
(3) 複数事業(場)の一括
上記原則の例外として、以下の三つの場合には、複数の事業(場)を
一括して一個の保険関係として処理し、保険事務処理の簡素化を
図ることが認められている。
①継続事業の一括
経理事務を集中管理する事業が多い実情に合わせ、できるだけ保険
関係を一括して扱うようになっている。
一括の条件
以下のすべてに該当することが必要である。
a.事業主が同一であること
b.それぞれの事業が継続事業であること
c.それぞれの事業の種類が同一であること
d.一括について政府の認可を得ること
申請の手続
「継続事業一括申請書」を労基署または職安へ提出する。
一括の効果
a.それぞれの事業場における保険関係は消滅し、指定を受けた一つの
事業場(一括された事務を扱う特定の事業場)において単一の保険関係
が成立する。
b.保険料納付事務は集中するが、保険給付事務は一括前のそれぞれの
事業場所在地の労基署が所管する。
②有期事業の一括
小規模の有期事業を相前後して各地で行う事業主については、一定の
地域内で行われるそれらの事業を一括して一事業とみなして保険事務
を処理する。
一括の条件
a.事業主が同一人であること
(注) 数次の請負による建設事業の場合には、労災保険法上の事業主は
原則として元請負人となるので(請負工事の一括)、元請エ事のみが一括
の対象となり、下請工事は一括の対象とすることはできない。
b.それぞれの事業が、建設事業または立木伐採事業のいずれか一方のみ
に属するものであること
c.建設事業にあっては請負金額が19,000万円未満、立木伐採事業にあっ
ては素材の見込生産量が1,000㎥未満であること
(注)ここでいう請負金額とは、請負契約上のものではなく、労災保険料
の算定基礎となる請負金額(工事用資材の価格や機械器具の損料等を加減
して算出した額)である。
d.それぞれの事業規模が、概算保険料の額で160万円未満であること
e.建設事業については、それぞれの事業の種類が同一であること
f.それぞれの事業が、一定の地域内(保険料納付事務を扱う事務所の所在
地の都道府県内またはその隣接都道府県内)で行われること
申請の手続
不要
(上記条件をすべて満たすことにより、自動的に一括される)
一括の効果
一つの継続事業として取り扱われる。
③請負事業の一括
発注者→元請負人→下請負人→再下請負人などのように、2以上の事業
が縦に請負契約によって連鎖される場合(数次の請負事業)については、
数人の事業主が存在することになるが、通常相互に有機的関連があり、
個別に保険関係を成立させることは実情に合わないため、一括加入の
途が開かれている。
有期事業または継続事業の一括は、同一事業主が行ういくつかの事業を
括したものだが、ここにいう数次の請負事業の一括では、数人の事業主
が数次の請負関係にたって行ういくつかの工事を一括し、元請負人のみ
を一括された事業の事業主とするものである。
一括の対象
数次の請負による建設事業
申請の手続
不要
(左記条件を満たすことにより、自動的に一括される)
一括の効果
すべての工事が元請負人
の行う事業の一部と見な
され、全体が一つの事業
として取扱われる。
●下請事業の分離
当該連鎖の中の下請工事について、下請だけで請負金額が19,000万円以上
または概算保険料の額が160万円以上になる場合には、元請負人は、「下
請負人を事業主とする認可申請書」を労基署へ提出し認可を得ることによ
って、その下請工事部分につき独立の保険関係を成立させることができる。