解体工事における保険の重要性と選び方【リスク回避のための対策】
解体工事は建設業になくてはならない、非常に重要な役割を果たしています
が、同時に非常に高リスクな業態でもあります。
老朽化した建物の解体、新たな建築計画のための撤去作業、内装解体など、
解体工事はさまざまな局面で必要とされます。
しかし、補償を引き受ける保険会社にとってもリスクが高く、事故多発企業と
認定されると、保険料の大幅なアップや、契約更新の拒否を受けることが
有ります。
事故防止対策を徹底し、保険会社・保険代理店との良好な関係を保って
おくことが不可欠です。
1. 解体工事に伴うリスクとは?
解体工事は、建物・什器備品・機械を撤去する作業であり、多くのリスクを伴います。
1.1 物的損害のリスク
解体工事は、周囲の建物やインフラに影響を与えるリスクがあり、
足場・養生シート・パネル分別・搬出等、綿密な施工計画を立てる
必要があります。
特に構造物が密集した都市部では、隣接する建物や道路、電柱
などに損害を与える可能性があります。
また、解体作業中にクレーンや重機が損傷したり、工事用資材
が飛散して予期せぬ損害を引き起こすケースもあります。
隣建物・外壁を損傷させる事故が多く、作業に入る前に綿密な
作業計画の策定が必要です。
また、賠償責任保険では振動・騒音等は免責事項になるため、
防音壁・重機等の防音対策、近隣説明等の事前対応が必要です。
1.2 人的リスク(作業員の事故)
解体工事では、高所作業や重機の操作など危険な作業が多く、
作業員のけがや死亡事故が発生するリスクも高まります。
これにより、従業員や下請け業者への賠償や補償が必要になる
場合もあります。
解体作業で発生する粉塵で作業員の呼吸器系に影響を及ぼす
リスクがあり、水撒き、防塵マスクの着用は必須です。
また、避難ルートの確保、定期的な安全訓練の実施をtodoとして
組む必要があります。
1.3 第三者への賠償リスク
現場内の他社作業員や、工事現場の周辺にいる一般市民や
通行人に対して、対人事故が発生するリスク、誤って飛散した
瓦礫や部材が隣家の屋根や駐車中の車両など、第三者に
対物被害を与える可能性も考えられます。
また重機・機械を借りて施工を行う場合、借りた重機・機械
を破損した場合のリスクが存在します。
1.4 環境リスク(アスベストや有害物質)
古い建物を解体する際、アスベストや鉛、PCBなどの有害
物質が含まれている可能性があります。
これらが飛散した場合、周囲の環境や人々の健康に深刻
な影響を与えることがありますが、原則、賠償責任保険では、
アスベストが原因の賠償事故を免責としているため、有害物質に
対するリスク管理が必須です。
石綿作業主任者が不在の場合、石綿アスベスト作業ができません。
アスベストを安全に除去するためには不可欠な国家資格、石綿作業主任者を
取得した人員を配置することが必須になります。
各協会団体等で石綿作業主任者技能講習が行われており、
満18歳以上であれば誰でも受講でき、業務が忙しい場合、Web講座の
選択肢もありますので、スタッフに取得するインセンティブを設けることを
お勧めします。
2. 解体工事に必要な保険の種類
解体工事のリスクに備えるためには、適切な保険に加入しておくことが
不可欠です。以下に、解体工事に関連する主な保険の種類を紹介します。
2.1 賠償責任保険(第三者賠償責任保険)
解体工事中に第三者に損害を与えた場合、賠償責任が発生します。
賠償責任保険は、こうした第三者への賠償金をカバーするための保険です。
たとえば、工事中に隣接する建物の一部が損傷させたり、
通行人が瓦礫に当たって負傷した場合、この保険が賠償金を補てんします。
ただし、騒音、振動、アスベスト、基礎・掘削工事にまつわる地盤沈下※、
石綿等の飛散・ちり・ほこりによる損害等、免責事項があるため、
把握しておくことが必要です。
⇒※「地盤崩壊危険補償特約」をセットすることで一部補てんが可能。
2.2 労災保険(労働災害保険)・上乗せ労災保険・使用者賠償責任保険
解体工事は危険が伴うため、作業員が事故やけがに遭うリスクが高いです。
労災保険は、作業員が事故で負傷した場合の治療費や休業補償をカバー
します。
法的に義務付けられている政府労災とともに、補償額を上乗せする上乗せ
労災を利用して、従業員に対して負う責任を果たすために必要です。
また近年、問い合わせが増えている、使用者賠償責任保険とは、
政府労災の対象となる事故が起き、安全管理義務違反等、使用者側が
その責任を問われた場合に、賠償責任を肩代わりするものです。
次のような労働災害により使用者が法律上の損害賠償責任を負うおそれ
があります。
・漏電災害によりケガをしたなど、機械・設備の欠陥による労働災害
(工作物責任)
・工作機械に安全装置がついていなかったためにケガをしたなど、
安全維持の配慮を欠いていたための労働災害(雇用契約上の
債務不履行責任)
・重機の操作ミスにより、同僚を負傷させるなど、被用者の過失による
労働災害(使用者責任)
会社の安全配慮義務違反等を問われた場合、高額な賠償請求を受ける
可能性があるため、リスクが高い解体業の場合、他業種に比べて、重要度
が高い補償となります。
2.3 動産総合・機械保険・借用財物損壊補償等
解体工事で使用する重機には多大な負担がかかり、またオペレーターの技量
により、重機自体を破損するリスクが有ります。
重機の所有者が自社なのか、リース会社なのか、元請け会社なのかによって、
準備する保険の種類も変わり、盗難・消耗品損害等、免責事項も多いため、
注意が必要です。
2.3 自動車保険
解体工事に各種自動車は不可欠です。
この自動車に自動車保険が付保されていない場合、現場敷地内で
事故が起きた場合、保険が使えない場合があるので、付保漏れが
ないかチェックが必要です。
ブーム・ユニック・アウトリガーなど車両に設置されている機械作業が
原因の事故でも自動車保険の優先使用を求められることがあります。
付保漏れがないか今一度確認する必要があります。
3. 解体工事に保険が必要な理由
解体工事に保険が必要な理由は、主に次の3つのポイントに集約されます。
3.1 高リスクな作業
解体工事は建設業の中でも特にリスクが高い作業です。
建物の構造が不安定になるケース、近隣に構造物がある現場が多いため、
事故や災害の発生率が他の工事に比べて高く、賠償事故が発生した場合、
損害額が高額になる可能性が有ります。
保険を適正に利用することで、事故や災害が発生した際に経済的損害を
最小限に抑えることができます。
3.2 予期せぬ事故への備え
解体工事では、周囲の建物や第三者に対する予期せぬ事故が発生することがあります。たとえば、隣接する建物に損害が及んだり、通行人が負傷する事故が起こる可能性もあります。こうした事故は、通常のリスク管理だけでは防ぎきれない場合も多いため、保険による備えが重要です。
3.3 法的義務と信頼性の向上
労災保険付保は法律で義務付けられており、解体工事業者が業務を行うために必須となっています。また賠償責任保険は、作業員や第三者に対する責任を果たすために必須の保険です。これらの保険に加入することで、企業としての信頼性も向上し、顧客や取引先からの評価が高まるというメリットもあります。
4. 解体工事における保険選びのポイント
解体工事に適した保険を選ぶ際には、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。適切な保険に加入しておくことで、リスク管理がしやすくなり、万が一の事態に備えることができます。
4.1 補償範囲を確認する
保険にはさまざまな補償範囲がありますが、解体工事に必要なリスクに対応しているかどうかを確認することが重要です。特に、物的損害や第三者への賠償責任、労災に対する補償が充実しているか確認しましょう。
4.2 保険料とのバランスを考える
保険料が高すぎると事業の利益を圧迫する可能性がありますが、補償が不十分な保険に加入していると、万が一の際に大きな損害を被る可能性もあります。適切な保険料と補償内容のバランスを考慮し、最適な保険を選びましょう。
4.3 重機・機械に対する補償があるか
解体工事では、高額な重機・機械による作業が伴い、その重機・機械の
所有者が誰なのかによって、必要な保険が変わってきます。
自社現場の重機・機械に補償が含まれているかどうかを確認してください。
5. 解体工事と保険:まとめ
解体工事は、物的損害や第三者への賠償、作業員の事故など、数多くのリスクが伴う作業です。
ゆえに保険会社は保険の引受に慎重なります。
小さな事故でも節操無しに保険使用していると、自社の保険の引き受け手と
なる保険会社がない。なんてことも起こりえます。
特に重機・機械の損害については、リスクが高く、免責の条件を厳しめに
設けられていることが多いです。
また修理費用も高額となりがちになるため、末永く安定した経営をして
いくには、いかにして事故発生を予防するかに注力することが、優先事項となります。
